あおいぽりばけつ
「……久しぶりじゃのう」

俯く私に影が落ちる。ゆっくりと見上げるといつの間にか大人びた陸の顔があった。顔を上げれば涙が零れて頬が濡れてしまう。

「うん、……うん、久しぶりやね」

「ぶっさいくな顔しとる」

ぎぎぎ、と錆びたブリキの玩具が動き出したみたいにぎこち無い。陸がふっと笑ったから、溜まりに溜まった感情が四方八方に飛び散った。
人混みの中立ち止まっていると迷惑だと隅の方に誘導されて、息を吐く。

「……元気やった?」

「ああ、まぁ」

周りの人混みは騒がしくて、喧騒の中ぽつんと取り残された私は言葉を探す。
でも適当な言葉は簡単には見つからなくて、他愛のない話を投げては、響かぬ返事が一言だけ返って来た。
思い付く質問を投げ付けて、虚しさが募る。

「陸は今、何してるん」

「仕事」

そんな話をしたい訳じゃない。もっと、会えなかった間の話をしたいのに、伝わらないのが悔しくて。同時に陸は、私にこれっぽっちの興味が無いのだなと辛くなる。
そして、高柳さんと話す時間が思い浮かんで、心地良さとはなんなのかを思い知る。
笑って話がしたいと、言葉が口から零れてしまいそうだ。

「ねぇ陸、……今幸せ?」

下らない質問。きっと下らない返事しか来ないのだ。知っている。でもこう聞けば、私を突き放してくれるに違いない。そうしたら、私は高柳さんに迷わず飛び込んで行けるに違いない。

だけど、陸はどこまでも私を掴んで離さない。
私の心の奥の底。涙の底、到底自分の手では届かない所を掻いてくる。

「……さぁな。幸せってなんなん?ワシにはわからん。……でも高三の秋から急に全部馬鹿らしぃなってつまらん」

そこまで言うと、集団から声がした。
私と陸を引き裂く合図。

「陸〜!!同窓会行くで〜!!」

「ほんなら、ワシ行くわ。彼氏、待っちょるんやろ?幸せなりや」

指をさした方には、高柳さんが居た。
寒い冬なのに脇の下が汗ばんで、冷や汗が私を刺激する。

「……見てたん?」

「そらあんだけ女達がキャーキャー言いよったら嫌でも見るじゃろ」

「違う、……彼氏じゃない」

「あ、そ。ワシには関係無いから別に否定せんでええよ」

ポケットに手を突っ込み人混みに紛れる寸前、私も立ち上がった。縋りつけないのなら、伝えさせて欲しい。

「私はっ……ずっと陸を想ってたよ、今も変わんないよ……」

私の言葉にぴたりと足を止めて、陸が振り向いた。

「……ほなら、またの」

陸は私に解けない魔法をかけて去って行く。いつだってそうだ。私はまた、陸に溺れていってしまうのだ。
揺れるブラウンが黒目に焼き付いて、瞬きが出来なくなった。
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