あおいぽりばけつ
「おかえり」
新成人それぞれが向かう場所へ行き始め、人も疎らになった市民ホールの隅の花壇に腰掛けていた高柳さん。前に立つと、ゆっくりと笑って私にそう声を掛けた。
甘いマスクに、抜群のセンス、そして私を心から思ってくれる高柳さんに、私は似合わない。
「スッキリした?ちゃんと話せた?……寒くない?」
優しい声にまた泣けて来て、ぽろりぽろり、涙が落ちる。手を前で結び、黙って泣き続ける私を見て高柳さんが立ち上がり影を落とす。
「寒かったでしょ」、と私の手を引いて車の助手席のドアを開けてくれる高柳さんに私はなんと声を掛けたら良いだろうか。
「……乗れないです」
「……でも、ほら。手がこんな冷えちょるよ。風邪ひいたら大変じゃ」
無理に押し込む事も、強く声を荒らげる事もせず、ただ私の手を握り優しく声を掛ける高柳さんに申し訳無さと甘えてしまいたい弱い心が私を責め立てる。
「私、……ごめんなさい。まだ諦められないです、高柳さんの気持ちに応えられない」
冷気に晒され更に冷える涙が頬を伝う。呼吸が上手く出来ない。浅く息をする私を見て困った様に笑って、高柳さんは走り出した。
「じゃあこれ持っちょき」
少しして帰って来た高柳さんが私に手渡したのは暖かい缶ジュース。
ふわりと私の手に落としたそれはじんわりと私の身体を温め出す。止まり始めた涙がまた、ぽろり、ころりと流れて落ちる。
私の隣にそっと立って、高柳さんが優しく問うた。
「告白、上手くいったん?」
ふるふると首を横に振る私。泣いている私の横で、人の目も気にせずに優しく笑っている、こんな素敵な人に飛び込めない自分が情けなくて仕方が無い。
「振られた?」
首を縦にも横にも振れなかった。黙り込んでいると、高柳さんがゆっくりと私の目を見て話し出した。
「俺にはそんな涙を流す伊織ちゃんをほってはおけんのよね。そんな風に泣いちゃう伊織ちゃん見てさ、それでも好きなら、思い続けなよなんて言いたくない」
ブラックコーヒーを口に含み、高柳さんが白い息を吐いた。真っ赤になった鼻を啜ると、同じように高柳さんが鼻を啜り言う。
「……俺なら、絶対にそんな風に鼻真っ赤にさせんし、泣かせんよ?」
その言葉に口はへの字に、目は潰れて頬はびしょ濡れだ。
「冷たい涙よりも、温かい涙の方が伊織ちゃんには似合っちょるよ」
手袋を外しそっと撫でられた頬に、ほのかな温もりが乗った。
冷たい涙を高柳さんの手に触れさす事に申し訳無ささえ感じた。
「でも、私、まだ好きなんです、だから」
「いいよ、今はそれで。そうじゃ、これ」
ゴソゴソと花束を取り出して、高柳さんは笑った。
「花屋に行ってさ、ベタに真っ赤な薔薇の花束が良いかなって思うたんやけどさ。俺の伊織ちゃんのイメージってかすみ草なんよね」
溢れんばかりのかすみ草。真ん中には赤い薔薇。愛おしそうに花束を見つめて、話を続ける。
「伊織ちゃんはさ、少女みたいで、可憐で儚げでたまに凄いミステリアスって言うか、俺の知らん様な顔をするんよね。白いかすみ草に隠してる心の奥は真っ赤で、情熱的で、素敵なんやろうなぁって思って真ん中に赤い薔薇入れてみたんよ」
そこまで言い終え、高柳さんは真っ赤な薔薇だけ抜き取り私に手渡した。
「まだ、伊織ちゃんの心は貰えそうにないから、かすみ草は俺が貰ってええ?」
人生の分かれ道。これが間違っているかなんて、やっぱり私には分からない。でも、誰かに縋りたいと思ってしまったのだ。だって私は、弱いから。
ひとりぼっちは、寂しいから。
新成人それぞれが向かう場所へ行き始め、人も疎らになった市民ホールの隅の花壇に腰掛けていた高柳さん。前に立つと、ゆっくりと笑って私にそう声を掛けた。
甘いマスクに、抜群のセンス、そして私を心から思ってくれる高柳さんに、私は似合わない。
「スッキリした?ちゃんと話せた?……寒くない?」
優しい声にまた泣けて来て、ぽろりぽろり、涙が落ちる。手を前で結び、黙って泣き続ける私を見て高柳さんが立ち上がり影を落とす。
「寒かったでしょ」、と私の手を引いて車の助手席のドアを開けてくれる高柳さんに私はなんと声を掛けたら良いだろうか。
「……乗れないです」
「……でも、ほら。手がこんな冷えちょるよ。風邪ひいたら大変じゃ」
無理に押し込む事も、強く声を荒らげる事もせず、ただ私の手を握り優しく声を掛ける高柳さんに申し訳無さと甘えてしまいたい弱い心が私を責め立てる。
「私、……ごめんなさい。まだ諦められないです、高柳さんの気持ちに応えられない」
冷気に晒され更に冷える涙が頬を伝う。呼吸が上手く出来ない。浅く息をする私を見て困った様に笑って、高柳さんは走り出した。
「じゃあこれ持っちょき」
少しして帰って来た高柳さんが私に手渡したのは暖かい缶ジュース。
ふわりと私の手に落としたそれはじんわりと私の身体を温め出す。止まり始めた涙がまた、ぽろり、ころりと流れて落ちる。
私の隣にそっと立って、高柳さんが優しく問うた。
「告白、上手くいったん?」
ふるふると首を横に振る私。泣いている私の横で、人の目も気にせずに優しく笑っている、こんな素敵な人に飛び込めない自分が情けなくて仕方が無い。
「振られた?」
首を縦にも横にも振れなかった。黙り込んでいると、高柳さんがゆっくりと私の目を見て話し出した。
「俺にはそんな涙を流す伊織ちゃんをほってはおけんのよね。そんな風に泣いちゃう伊織ちゃん見てさ、それでも好きなら、思い続けなよなんて言いたくない」
ブラックコーヒーを口に含み、高柳さんが白い息を吐いた。真っ赤になった鼻を啜ると、同じように高柳さんが鼻を啜り言う。
「……俺なら、絶対にそんな風に鼻真っ赤にさせんし、泣かせんよ?」
その言葉に口はへの字に、目は潰れて頬はびしょ濡れだ。
「冷たい涙よりも、温かい涙の方が伊織ちゃんには似合っちょるよ」
手袋を外しそっと撫でられた頬に、ほのかな温もりが乗った。
冷たい涙を高柳さんの手に触れさす事に申し訳無ささえ感じた。
「でも、私、まだ好きなんです、だから」
「いいよ、今はそれで。そうじゃ、これ」
ゴソゴソと花束を取り出して、高柳さんは笑った。
「花屋に行ってさ、ベタに真っ赤な薔薇の花束が良いかなって思うたんやけどさ。俺の伊織ちゃんのイメージってかすみ草なんよね」
溢れんばかりのかすみ草。真ん中には赤い薔薇。愛おしそうに花束を見つめて、話を続ける。
「伊織ちゃんはさ、少女みたいで、可憐で儚げでたまに凄いミステリアスって言うか、俺の知らん様な顔をするんよね。白いかすみ草に隠してる心の奥は真っ赤で、情熱的で、素敵なんやろうなぁって思って真ん中に赤い薔薇入れてみたんよ」
そこまで言い終え、高柳さんは真っ赤な薔薇だけ抜き取り私に手渡した。
「まだ、伊織ちゃんの心は貰えそうにないから、かすみ草は俺が貰ってええ?」
人生の分かれ道。これが間違っているかなんて、やっぱり私には分からない。でも、誰かに縋りたいと思ってしまったのだ。だって私は、弱いから。
ひとりぼっちは、寂しいから。