あおいぽりばけつ
黒目を横に流せば新しい花。落ちもせず、枯れもせずただじっと木になる赤い実から私は目を逸らした。


「伊織ちゃん」

成人式が終わり、正式なお付き合いまで踏み切れなかった私は弛んだ毛糸で高柳さんを縛り付け縋る様になっていた。

「今度の連休、旅行にでも行かん?」

高柳さんと過ごす日々で私は自然に笑う事が出来るようになった。忘れかけていた私の名前を、思い出した。感謝の言葉だけでは足りない程に、高柳さんの存在は私の中で大きくなっていた。

「旅行ですか」

だけど、成人式での陸との再会で私はまた魔法をかけられた。それはきっと死ぬまで解けぬ、半ば呪いにも似た何か。
高柳さんの優しさに甘えているのに、心のどこかで陸を思い続ける日々だった。

「まぁ県外って言ってもほんまに近場じゃけど」

鞄から取り出されたパンフレット。それは隣の県のパンフレットだった。季節は桜がそろそろ咲き始める頃。

「温泉入って、美味いもん食べて。どう?」

成人式以来、私はまた自然に笑えなくなっていた。笑っていてもそれは偽物、仮面を貼り付けていた。
それに気が付いているのは、私だけだろう。

だけど、自分に言い聞かせる。それは、私の勘違いだと。

「良いですね。行きましょう」

大きく頷いていつも通りに振舞って、虚しさだけが私に覆い被さる。

甘える癖に、さらけ出せない。
縋る癖に、気持ちはそこに無い。

いつか、きっと。私が陸に思う気持ちを高柳さんも抱いている事が手に取るようにわかって辛くなる。

なのに、高柳さんに、見えない傷を癒して欲しいと無責任な気持ちで私は側に居る。最低だ。最低なのに、高柳さんが望んでいるのだから、と自分に言い聞かせて考える事を止めた。
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