あおいぽりばけつ
「しかし、高柳さん結構ぐいぐい行くんじゃね」

同期と久しぶりに退勤時間が被り、丁度よく私の予定も同期の予定も空いていると繰り出した華金。成人式の話は瞬く間に社内に広がり、気が付けば公認の仲のような扱いになっていた。
だけれども、陸の存在はすっ飛ばされて高柳さんが皆の前で私に膝をつき告白をしたと尾ひれがついて広がったのだ。

「ん、私もちょっとびっくりしとる」

やっと解禁したアルコール。頭がふわふわするけれど高柳さんの名前が出た途端に頭の芯がスっとクリアになった。

「けど今まで高柳さんにアタックした人いっぱいおるみたいやけど誰にも靡かんかったって先輩言うてたよ??伊織ちゃんがほんまにタイプなんじゃろうね」

「なんで付き合わんそ?実家金持ちで玉の輿、我が社の出世頭でイケメンで、優良物件やんか。羨ましいわ」

まるで吐き捨てるように言われて、傷付いた。だけど面と向かって傷付いたとは言えなかった。
同期から寄せられる眼差しが痛かった。私はその優良物件を都合良く利用している事が後ろめたくて仕方ない。

「うちらだって言うとる間にアラサーになるんよ?逃したら勿体ないがね」

「皆は、」

羨ましい羨ましいと喚く同僚の言葉を遮り、私は口を開く。一呼吸、二呼吸。アルコールのせいか、鼓動が早くなり鼓膜に響いて言葉が上手に出ない。

ごくりと唾を飲み込んで、意を決して問いかけた。

「忘れられない人と、思ってくれる人。どっちを選ぶ?」

きゃっきゃと色めき立っていた席が一瞬静まり返った。そして各々天井を見上げてぽつぽつと話し出した。

「私は思ってくれる人がいいなぁ。だって幸せじゃない?思われるって」

一人がそう言った。そして更に続ける。

「大体、忘れられない人って言っても現実味が無くない?思い出補正かかってるってそんなん」

焼き鳥をがぶりと噛んで鼻を一度だけ鳴らした。
するともう一人が手を挙げた。

「うちは〜、忘れられない人に一票!」

「なんでよ」

テーブルに肘をつき、うっとりした顔で黙り込み暫くしてゆっくりと語り出す。

「忘れられない人って、自分の中の理想の人って事でしょ?うちやったら、追い掛けたい。だって理想の人なんやもん。でもでも、行き遅れたくないって気持ちは捨てにゃならんよね、そしたら」

うんうん、と一人頷いて話が終わった。そして二人の視線が私に集中した。

「で、伊織ちゃんの忘れられない人ってどんな人なん?」

その目は、まるで新しい玩具を与えられた幼女の様で少しだけ肌が粟立つ。こういう時、女は察しが良くて困る、なんて思いながら陸を思い浮かべた。
オレンジ色のカクテルを傾けて、私は静かに話を始めた。
< 39 / 82 >

この作品をシェア

pagetop