あおいぽりばけつ
眠りに落ちるにはまだ足りない。だけど意識を保つのは少し難しい。
ことことと揺れる車内の助手席。薄れたコーヒーの香りが私の意識を引っ張って、反対にブランケットの柔らかさが眠気を誘う。

ラジオのボリュームが徐々に小さくなっていく。

微睡みくるくると陸と出会った日から思い出し、高柳さんとの穏やかな日々に辿り着く。
一枚一枚ページを捲るように思い出せば陸との思い出はボロボロで所々、涙で滲んでいる。あの頃の私は自分の名前をすっかり忘れていて、笑う事も上手く出来なくなっていた。ただ陸の事しか考えていなかった。【自分】と言う大切なモノを忘れかけていた。
そんな私を高柳さんが、変えてくれた。私は私の名前を取り戻して、自然に笑える様になっていた。高柳さんとの思い出は、綺麗なままだ。滲みも薄れも何処にも見当たらない。なのに、何かが物足りないと感じてしまった。

幸せになりたい。

それは誰だって思い感じる事だろう。だけどその曖昧な【幸せになりたい】の振り幅は人それぞれで、きっと私の中の幸せは、陸を思う事なのだろう。

待っていると高柳さんは私に言った。きっとずっと、待ってくれるだろう。変わらぬ笑顔でいつ吹っ切れるか分からない、何を思っているか分からない私を。
そんな事、させられない。幸せになって欲しい。心からそう、思う。

「伊織ちゃん、起きて」
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