あおいぽりばけつ
ぼやける視界をこじ開けて辺りを見渡すと、パーキングエリアの駐車場。まだ朝早いからか人は疎ら。
「後三十分くらいで着くから、ここで朝飯軽く食べよか」
エンジンを切りながら高柳さんが私に話しかける。置いていたコーヒーカップはもう既に冷たくなっていた。一口啜り車を出ると潮の香りがした。
「海、凄い」
ふらふらと潮の香りに引き寄せられて柵から身を乗り出し、海面を覗き込むとそこは濃く深い青が広がっていた。波が押し寄せる度に白い泡が現れて、消えて。惹き込まれて眺めている私の隣で何も言わずに高柳さんも覗き込む。
「飲み込まれてしまいそうですね」
何メートルも下にある海。心を奪う海。
私の呟きに何を感じただろうか。
何も、感じないだろうか。
海なんて、いつでも見れる。だけど思い悩む私には深過ぎる青。押しては引いて行く海をどれ位眺めていただろうか。高柳さんがふわりと私の肩に上着をかけた。
「好きなだけ見たらええよ。まだ寒いから上着着とき」
そう言い残して高柳さんはパーキングエリアの中に消えて行った。
ひとり潮風になびく髪を押さえてまた考える。
飛び込んで波に飲まれてしまえば思い悩む事はなくなるだろうか。飛び込んで、人魚姫の様に泡になれてしまったら、こんなくだらない私の人生も少しはドラマチックに語り継がれるだろうか。
海を見て思い出すのは誰でも無い陸だと、胸が張り裂けてしまいそうになる。
「どうぞ」
涙が目の縁から溢れてしまいそうな瞬間、鼻を刺激する温かな湯気。目尻を指で押さえて涙を消し去った。
「コーンスープ。朝からなんか食うんしんどいかもやから先にこれ飲み」
温かいカップを受け取って一口、口に含めば優しい味が鼻を抜ける。
何も話せず波の音を聴いていると高柳さんが口を開いた。
「……夏には海行こか。秋は美味いもんたくさん食べてさ、冬はスノボも良いよなぁ。……伊織ちゃんとしたい事たくさんあって困るわ」
口に入ったコーンをひとつ噛み潰して、私の心が握り潰される。ぶちゅ、とした感触を二度三度。
「伊織ちゃんとたくさんいろんな場所行って、また次の季節に同じ場所に行って……考えただけでワクワクしてまうんよね」
独り言の様に、波に消されそうな声で高柳さんが言葉を紡ぐ。そんな高柳さんの横顔を見て、私は何も答えられない。
柵にもたれ掛かり煙草を咥えた高柳さん。紫煙がゆら、ゆら、私を責め立てた。申し訳無くて、不甲斐なくて、黄色いコーンスープに私の涙が一粒落ちた。とろりとした中に沈み込んだ私の涙は、息が出来ないだろう。深い青を見て、私も息苦しくなった。
「朝飯、いらない?」
ふわりと笑った高柳さんから目を逸らし海を見つめて頷いた。温かなコーンスープと罪悪感で、追い詰められた時の様なイヤなムカつきが身体で暴れ回っていた。
「後三十分くらいで着くから、ここで朝飯軽く食べよか」
エンジンを切りながら高柳さんが私に話しかける。置いていたコーヒーカップはもう既に冷たくなっていた。一口啜り車を出ると潮の香りがした。
「海、凄い」
ふらふらと潮の香りに引き寄せられて柵から身を乗り出し、海面を覗き込むとそこは濃く深い青が広がっていた。波が押し寄せる度に白い泡が現れて、消えて。惹き込まれて眺めている私の隣で何も言わずに高柳さんも覗き込む。
「飲み込まれてしまいそうですね」
何メートルも下にある海。心を奪う海。
私の呟きに何を感じただろうか。
何も、感じないだろうか。
海なんて、いつでも見れる。だけど思い悩む私には深過ぎる青。押しては引いて行く海をどれ位眺めていただろうか。高柳さんがふわりと私の肩に上着をかけた。
「好きなだけ見たらええよ。まだ寒いから上着着とき」
そう言い残して高柳さんはパーキングエリアの中に消えて行った。
ひとり潮風になびく髪を押さえてまた考える。
飛び込んで波に飲まれてしまえば思い悩む事はなくなるだろうか。飛び込んで、人魚姫の様に泡になれてしまったら、こんなくだらない私の人生も少しはドラマチックに語り継がれるだろうか。
海を見て思い出すのは誰でも無い陸だと、胸が張り裂けてしまいそうになる。
「どうぞ」
涙が目の縁から溢れてしまいそうな瞬間、鼻を刺激する温かな湯気。目尻を指で押さえて涙を消し去った。
「コーンスープ。朝からなんか食うんしんどいかもやから先にこれ飲み」
温かいカップを受け取って一口、口に含めば優しい味が鼻を抜ける。
何も話せず波の音を聴いていると高柳さんが口を開いた。
「……夏には海行こか。秋は美味いもんたくさん食べてさ、冬はスノボも良いよなぁ。……伊織ちゃんとしたい事たくさんあって困るわ」
口に入ったコーンをひとつ噛み潰して、私の心が握り潰される。ぶちゅ、とした感触を二度三度。
「伊織ちゃんとたくさんいろんな場所行って、また次の季節に同じ場所に行って……考えただけでワクワクしてまうんよね」
独り言の様に、波に消されそうな声で高柳さんが言葉を紡ぐ。そんな高柳さんの横顔を見て、私は何も答えられない。
柵にもたれ掛かり煙草を咥えた高柳さん。紫煙がゆら、ゆら、私を責め立てた。申し訳無くて、不甲斐なくて、黄色いコーンスープに私の涙が一粒落ちた。とろりとした中に沈み込んだ私の涙は、息が出来ないだろう。深い青を見て、私も息苦しくなった。
「朝飯、いらない?」
ふわりと笑った高柳さんから目を逸らし海を見つめて頷いた。温かなコーンスープと罪悪感で、追い詰められた時の様なイヤなムカつきが身体で暴れ回っていた。