あおいぽりばけつ
神社の隅に置かれた小さな赤い箱に百円玉を押し込み、かこんと落ちる小さなおみくじ。
手に取り二人で並び、糊を慎重に破いて沈黙。

「末吉」

「私もだ」

なんて事ない偶然に顔を見合わせて笑い合う。おみくじの内容よりもこうして笑い合える事が大切に思える人に高柳さんには出会って欲しい。
残念だけれど、私にはその相手になる資格が無い。

「初詣とかもう数年行ってないから、久しぶりに御参りしたしおみくじも何年ぶりやろ」

御籤が無数に結ばれた木に二人で結んで歩き出す。
砂利道は相変わらず歩きにくい。自然と結ばれる手はそれでも暖かかった。
ちらほらと綻び出す桜を潮風が悪戯に揺する。

「ねぇ伊織ちゃん」

肌で感じる、その言葉の後に続く事。肌が物凄いスピードで粟立ち、察知して、私は遮った。

「ホテルのチェックイン、何時ですか?」

私の言葉に腕時計を見て、高柳さんは少し悲しそうな顔を浮かべて微笑んだ。

「そう、やね。そろそろホテル行こか……」

この旅が終わる迄に、私はどれほど高柳さんを傷付けてしまうだろう。ラストが見える悲劇程、虚しくて悲しくて辛いものがあるだろうか。出来るなら、もう目を閉じて、本を閉じてしまいたい。見たくない。

どこを走っても、どこまで走っても山と海、たまに現れる名前も知らないコンビニ。ぼんやりと眺めて、暖房で頬が桃色に染まる。

「車酔いとかせん?大丈夫?休憩しよか?」

「三半規管は強いから大丈夫」

場を和ませようと努めてみるけど、薄っぺらい三文芝居。ぎこちなさが消えない。

窓を開けて潮風を誘い込んでいると高柳さんが提案をする。

「チェックインして荷物置いたら海、行こか」

穏やかな声でそう言うから、私はゆるゆると高柳さんの方を向き、頷いた。高柳さんは横目で私を見て、笑う。

「……ほんま、海好きなんやね」

ホテルの駐車場に入り私は言葉が出なくなる。何処にでもある普通のホテルを想像していた私は、目の前に見える立派な建物に驚きを隠せなかった。

「なんか……すごい豪華ですね……」

「まぁ時期が時期やし、手頃なホテルはほぼ埋まってたんよね」

「えっ、悪いです……やっぱりホテル代、出します」

助手席で私が焦ると高柳さんが頭を撫でて言葉を遮った。

「伊織ちゃん。この旅行は、俺が無理矢理誘ったし、伊織ちゃんにリフレッシュして欲しいけん誘ったんよ」

エアコンが切れた車内が徐々に冷え始めた。
ブランケットの端を握り、「でも」と言おうとすると頬を撫でられる。

「全部俺のわがままで今ここにおるんよ。だから何も気にせんでええからね」
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