あおいぽりばけつ
ホテルに入ると私と荷物をロビーに置き去りにして、慣れた手つきでフロントに向かう高柳さんの背中をぼんやりと眺めて物思いにふける。

もう心に強く決めたのに、不意に心が揺らぐ。
徐々に好きになれたら、それでいいのに。
何故、何故、こんなにも陸に執着してしまうのか。

和やかにホテルのスタッフと談笑する高柳さんから目を離し、ロビーを見回すとお土産屋さんがあった。荷物をちらりと見て、立ち上がろうとした瞬間。

「おまたせ。行こか」

高柳さんが私の方に歩み寄りながら笑いかけた。
順番待ちをしていた他の宿泊者の視線が高柳さんを追い掛けている。
ゆるりと立ち上がり自分の荷物を持とうとすると柔く奪われた。

「部屋、八階やってさ」

幾つになってもホテルは、ワクワクする。なのに心がぴくりとも反応しない。狭いエレベーターの中でゴテゴテしたポスターを眺めていると後ろから高柳さんが覗き込む。

「飯、部屋で食べる?」

「……どうします?」

質問を質問でしか返せない。私は変われたと思っていたけれど、どうやら変われてなどいないみたいだ。
私の返事で微妙な空気が流れてしまった。視線を左上に向けて、高柳さんが何かを考えている。

「海見える部屋やし、部屋で食べよか」

私は力無く頷いて扉が開くのをじっと待つ。その間に響く二つの呼吸は不揃いで気持ちが悪い。
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