あおいぽりばけつ
気持ちを伝えあった夜。どれ位の涙を流しただろうか。二人で窓辺に腰掛けて出会いの日から今日までを語り合った。まるで昨日の事のように、鮮明に語る高柳さんの横顔はまだ少しだけ曇って見えた。

「高柳さん」

気持ち良さそうに缶ビールを煽る高柳さんを呼んだ。
視線をこちらに向けて眉をあげる高柳さんに私は携帯を取り出して言う。

「連絡先と、履歴消しましょ」

私の言葉に一瞬顔を顰めた。二度ほどビールを流し込み、そして、口を開く。

「それは必要やろか??」

「またいつこうやって縋ってしまうか分からないから」

きっぱりと言い切る私に、溜息を吹きかけて携帯を手繰り寄せ画面を私に向ける。

「嫌だ、って言ったら?」

「私も嫌だって言います」

高柳さんがそんな駄々を捏ねる人ではないと知っている。でも、それだけ今でも思ってくれているのだ。
差し出された携帯と私の携帯を隣同士に並べて、高柳さんの指を私の携帯に。私の指を高柳さんの携帯に。「せーの」と小さな掛け声をあげると、消去ボタンを二人で押した。

「履歴は踏ん切りがついたら消すわ」

いたずらっ子みたいな笑顔で缶ビールを飲み干してゴミ箱へと投げ入れた。
黙って携帯のメールを眺めてみても、くだらない話ばかりで今消したって良いじゃないかと思う。
でも、きっとそれは振られた側と振った側では違うのだろう。
下に山盛りにある鍵マークの付いたメール。全て陸からのメール。高柳さんの気持ちが分かるな、と先程の考えを覆した。

「今日の事、私絶対に忘れません」

携帯を胸に抱き、私が言うとひと足早く布団に転がり込んだ高柳さんが笑った。
もぞもぞと布団に潜り込んで。

「俺も、伊織ちゃんの事、忘れんよ」

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