あおいぽりばけつ
酸っぱい実が私を苦しめた。なのに、時たま当たる甘い実が、私の手を止めさせない。食べて、顔を顰めて、また綻んで。

「お待たせ」

何度傷つけられたって、もう私には陸しかいなかった。仕事の間も携帯が気になって仕方ない。着信を知らせるランプに一喜一憂する日々が続いていた。

「おう」

計画を立てて会ってどこかへ出掛ける事は無い。明るい内に会う事も無い。
私と陸は月夜が照らす道しか、並んで歩けない。
それでも会える事が嬉しくて、私はいつも胸が踊る。

少し前は、何処かに出掛けたいだとか、映画に行きたいだとか言っていた。だけど尽く断られ私の心には無数のセロハンテープが巻き付けられている。

高望みはしてはならない。会えるだけで幸せなのだと、いつしかまた自分に言い聞かせる様になっていた。

「ご飯食べた?」

「食った」

「どっか寄る?」

私の言葉なんて知らん振りで先へ先へと歩いて行く陸の背中を眺めて、怒りとは違う、遣る瀬無さが募っていく。仲睦まじく肩を寄せ歩くカップルに苛立ち、ぶつかってやろうかとささくれ立つ日も少なくはない。

並んで歩く事も何時しか諦めていた。背中を眺めれたら幸せじゃないか。手を伸ばせば触れられて陸が今、そこに居るのに他に何を望むと言うのか。

先を行く陸がぴたりと立ち止まり、振り向いた。
揺れる黒髪に胸が浮く。

「どっか行きたいとこ、あるんか」

突然の問いに、驚き言葉を探していると陸が口を開く。

「飯、食うたんか」

陸を想い出して、間の大切さを学んだ。その言葉に弾かれたように私は首を勢いよく振った。

「ほんならなんか食うか」

「けど陸、ご飯食べたんじゃろ?」

「いらんのか」

睨む様な視線に背筋が凍る。
だけど二人で食事に行くなんて、滅多になくて嬉しくて頬が緩んだ。

「……行く。お腹減った」

先程よりも少し近づいて歩く、そんな些細で下らない事が嬉しくて仕方ない。
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