あおいぽりばけつ
陸が私の腕の中で震えた日から数日が経った。不規則に鳴る携帯を気にする毎日。携帯のライトが光れば胸が踊り、うんともすんとも光らない日は、気持ちが地の底にめり込んだ。

友人が次々に結婚して行く。家に届く色とりどりの封筒を開いては胸に針が刺さり穴が空いていく様な気持ちになる。

「皆結婚してくのに、うちのはなんで浮いた話一つないんじゃろうかね」

「……うるっさいなぁ」

湯呑みをわざとらしく啜り、母が独り言を装い私を突く。目を合わせずに反応すると、これまたわざとらしく手を叩いて廊下へと走って行く。

「浮いた話一つ無い娘に朗報」

気持ちの悪い笑みを浮かべて後ろに何か隠しながら私の前まで歩いてきた。「じゃん」と嬉しそうに出したのは、所謂見合い写真。ドラマや漫画でしか見たことの無いかしこまったソレを見て、知らない振りをした。

「何これ」

「何ってあんた、見たまんまやん。見合いしぃよ」

何を想像しているのかうっとりと宙を眺めて母がペラペラと話し出した。

「お母さんが働いとる所の柴田さん知っとるやろ?その柴田さんの遠い親戚が良い人おらんかって言うてたからさぁ、お母さん話つけて来ちゃげたよ」

ドヤ顔と言うのは、こんな顔なのだろう。
興味無さげにその柴田さんと言う人の遠い親戚の写真を持ち上げて見た。そこには通勤電車に揉まれ過ぎたのか、少しやつれたような年配の男性が写っていた。

「おっさんやん」

「贅沢言いな!!大手企業で働いとるらしくって、玉の輿とまでは行かんかもしれんけど将来安泰じゃない??って言うかあんたね、高望み出来る顔やないよ」

血の繋がりがあるだけでこんなにも辛辣に詰められてしまうのか。ぐさぐさと刺さった矢を引き抜きながら毒づいた。

「まだ焦る年じゃないし、周りが早すぎるだけよ。それに私にだって好みくらいあるもん」

舌を突き出して言い返すと、何も知らない母が言う。

「良い人おんの?」

ばっと浮かんだ陸の顔。心から愛おしいと思う人は変わらずにずっといる。だけどその愛おしい人を良い人と言えない歯痒さに苛立った。

「……いない。けど見合いはしないよ」

母の力強いブーイングを背に、ドタバタと足音を立てながら自室へと駆け込んだ。
高柳さんに貰った薔薇のドライフラワーは今日も変わらずに私を優しく見守っている。「……ごめんね」と花びらを一撫でして謝ってみても、意味は無いのに。

「もう、何がしたいのか分からん」

分けっこのピアスを指で弾いた瞬間、涙が一粒、目から零れ落ちる。
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