あおいぽりばけつ
「お疲れ〜」
席に着いてからも明るく振る舞う浅田さんの声が、勘違いかもしれないが痛い。何故か高柳さんとの日々を思い出した。
当たり障りの無い話を次から次に繰り出す浅田さんの優しさが傷に染みる。
酒が良い感じに回り出した頃、ふと浅田さんは私と陸の関係を知っているのだろうかと疑問が浮かんで、分かるはずは無いのに探るようにじっと見た。
「ちょっ……そんな見たら俺の顔に穴が空いてまうわ」
焼き鳥の串を振りながら笑うのは、陸じゃあない。私の隣に座った友人は真正面に座る陸と何やら楽しげに話していて、また腹の底が煮えてしまいそうだった。
斜め前に座る陸をちらりと盗み見たが、ちっともこちらを見る気配は無い。まぁ、セフレ以下の女だから仕方ない。そう心を落ち着けようとしたが傷は更に深まった。
「あはは……ごめん。つい見てしまうんよ。……浅田さん彼女おらんのん?」
ヤケになっていつもよりピッチが早くなる。六杯目の底が見え始めた頃に、私は口を開いた。すると今まで私との会話に一切入ってこなかった陸が割り込んできた。
「おらんのじゃ。ずぅっと!!浅田はええ奴やのに、なっかなか続かんのよなぁ」
顔を赤く染めた陸が浅田さんの肩を抱いて大きく笑った。そして私と友人の顔を見て、浅田さんが懇願するような表情で言う。
「誰かええ人おらん?紹介してぇや」
エアコンの効きが悪い店内は酒も相まって少し暑い。陸がくれたピアスがまたじくじくと脈打った。
髪に隠した、揃いのピアス。誰にも見えない、揃いのピアス。
「え〜うちらの友達、みんな彼氏おるしなぁ」
頬を桃色に染めた友人が首を傾げて私と共通の友人の名前を次々に挙げながら笑った。特に友人の名前が浮かばずに押し黙っていると、陸が言い放った。
「ほんじゃあお前、浅田の彼女になったれや」
陸がそう言って指をさしたのは、斜め前に座る、私だった。
その言葉を聞き終始盛り上げ役に徹していた浅田さんの顔が強ばり、楽しげに酒に酔う友人の顔が曇ってしまった。
そんな事はお構い無しに陸は一層楽しげに話を続ける。
「浅田はええ奴じゃ。ワシなんかよりもずっとずっと大切にしてくれるわ」
言い終えて、深く頷き一人満足気に息を吐き、机は沈黙。誰も口を開こうとはせず視線を泳がせる。
周りは華金と活気づいていると言うのに、私達のテーブルはまるで葬式のようだった。
「浅田ぁ、コイツなぁ、ぴーぴーうるせぇ女じゃけどアッチの具合はまぁまぁええ。付き合えや」
「陸、飲み過ぎじゃ……」
浅田さんが止めようとしたが、酒に酔った陸は止まらない。セクハラ上司のように私との情事を掻い摘んで話そうとする陸の口を浅田さんが押さえた。
「陸、そういうんはこんな場所で言うちゃならん。女の子傷つけるような事だけはしちゃいけん」
「気にすんなや。コイツとは腐れ縁みたいなもんじゃからの。ワシは何だかんだ言いながらコイツにゃ幸せなってもらいたいんよ。じゃからの、浅田と付き合やぁ丸く納まるっちゅ〜やつじゃ」
何が一体丸く納まるのか全く分からない。何だかんだ、幸せになって欲しいと言うなら、陸が私を幸せにしてくれたら、丸く納まるじゃないか。
だけどそんな戯言よりも、ずっと追い続け思い続けてきた人に腐れ縁と言われた事が何よりも辛かった。
この縁は、私からしたらかけがえの無い縁なのに、奇跡に近い縁なのに。陸から見れば、腐れ縁なのかと、涙も出なかった。
鼻歌を鳴らす陸を見て、私は財布の口を開いて紙幣を数枚掴み、机に静かに置いた。
そして立ち上がり、下唇の内側を噛んで笑って見せた。
「ごめんね!!私、用事あるんじゃったわ。お金、足りんかったらまた次言うて」