あおいぽりばけつ
「おすすめ出来ん」

私の言葉を聞き、飲み込むまでに時間が掛かったのか数秒置いてピンク色をした煙草の箱から、細い一本を取り出して友人が吐き捨てるように言い放つ。私が好む煙草とは違う、甘い、チョコレートの様な香りの煙。全く違う香りが絡み合って靄になって、呆気なく空気清浄機に吸い込まれていく。

友人の言葉が、私の心臓を一突き。

ぐさり、刺さって私の肉に絡み付く。引き抜こうにも引き抜けないその鋭い言葉に私は灰を落としてパンプスを汚してしまった。

「彼氏からの紹介が嫌じゃったらウチのツレでも、なんぼでも紹介しちゃる。兎に角、あんたがこんなに傷付けられるの許せんのよ」

優しい言葉だ。刺された心臓の傷口から少しずつ染み渡る言葉。真正面から受け止められず灰が落ちた爪先をちょいと動かした。
言葉が出ずに何となく友人のヘアセットを眺めて、綺麗だなとぼやりと考えながら愛想笑いを浮かべて黄ばんだ灰皿に煙草を落とせば、友人がまた私の心を刺そうとする。

「飲み会ん時も聞いたけど、何処がいいんよ」

「……カラダの相性って、大事やん?」

「本気で聞いちょるんよ?……万が一付き合えたって、あんた……その先、想像出来る?」

友人の言葉が鳩尾を突き上げて、思わず嗚咽を漏らす所だった。ぐっと堪えて友人が言う【その先】がどの先なのか全く分からなくてゆっくり首を傾げると呆れたように「あんたねぇ」と呟いた。

「付き合ったら、結婚とか同棲とか色々と考えるやろうが」

そう言われて、何とも答えられなかった。
陸と一緒に居ること、それだけが私の幸せ。そう思い込んで信じ込ませて、今私は生きている。
いつか笑いかけてくれるなどと言う甘い考えは、いつだって胸の中にあるのだけれど、それは到底無理と諦めている私も居る。

「早いやろ、まだ」

二本目の煙草を取り出して、茶色いフィルターを撫でながら言えば間髪入れずに友人が吠える。

「そんなん言いよったらすぐ三十路なるよ」

「大袈裟過ぎるわ」

じゅっと火をつけながら言って、煙を吐き出した。煙に雲隠れしてしまいたい。肺を通り脳みそを萎ませる煙草だけが私を甘えさせてくれる。ゆらりゆらりと視界を通り過ぎる紫煙に目を細めて、つけまつ毛が重たい。

「じゃあ例えば」

壁にもたれ掛かり友人が指を振る。確かに揺れる左手には見覚えの無い指輪が光っていた。その光は、私の左手には一生宿ることの無い眩い光だろう。

「例えば結婚するとするやん?陸って子と」

「……うん」

「イメージ出来る?笑って暮らしてる二人を」

友人が眉根を寄せて険しい顔で言うから、そこそこ綺麗な顔が台無しだ。
黙りこくりながら頭の中でイメージをする。
陸と二人で幸せに暮らす日々。何度思い描こうとしても頭の電波が荒れていて砂嵐が辺り一面に広がっている。

「……分かんないけどさ、想像出来ないから一緒にいたいんだよね」

「は?」

人並みの幸せに浸る人間には理解が出来ないのだろう。意味が分からないと顔に書いてある友人を見て、私はゆっくりと考えを話す。

「正直先は見えないし、幸せになれるかなんて保証も無いよ。だけど、だからこそ一緒に居て、見えない先を見てみたいなって思う」

私の言葉を聞いて、「なんだそれ」と呆れる友人はきっともうすぐ私とは真反対の方に行くだろう。白いドレスを着て、おめでとうと言われる方に。私はそれを心の底からの祝福するだろう。

「あんたは他の友達とは違う。ヨボヨボなってもずっとずっと仲良くしたい思うとる。だからこそ誰よりも幸せになって欲しいんよ……」

こんなにも、私の幸せを願ってくれている友人の期待に応えられそうにない。それが情けなくて悲しくて下唇を噛み締めた。前歯にはきっと真っ赤な口紅がべったりと付いているに違いない。

陸とのその先なんて、本当に見えなくて、見えたって私はいつも泣いているだろう。
砂嵐の切れ間に見えたのは、泣いている私だけだった。

私は、陸と一緒にはなれない。

それだけは悲しいけれどはっきりと分かる。

信じ込ませていたけれど、魔法は心の痛みに負けてそろそろ解けてしまいそうだ。
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