あおいぽりばけつ
出来の悪い赤い実を見て、ため息を履く。あの実は手に取らずとも不味いと分かるから。

「りっくん、最近元気なん?」

甲高い声が通話口から漏れている。
それを察してかいつもの様にトイレへ駆け込む背中とテレビのボリュームを上げる指。

ふと、今アダルトビデオのチャンネルに変えたらどうなるかと不毛な好奇心がむくむくと沸き上がった。

そっと数字の書かれたボタンをひとつ、ふたつと爪で押して肌色。

徐々にボリュームをみっつ、よっつと上げて嬌声と肌がぶつかり合う音が部屋に響き渡った。
きっとトイレの薄い壁なんて余裕で突き抜けているだろう。

彼女にしてやる価値なんてこれっぽっちも無い女が、電話相手の女に嫉妬して威嚇をしていると陸は鬱陶しく思うだろうか。

けど私の頭の中にそんな気持ちは、今はもう無い。

ただ、こんな男は辞めておけと言う警告。私のように泣きたくなければ、と思って、もしかしたら電話相手の女は泣かされた事などないのではと考えて、馬鹿な事をしたなぁと他人事のように後悔をした。

「おい」

通話が終わったのか、はたまた強制終了したのか。

苛立ちを隠せない陸が静かに扉から出て来た。

「舐めとるんか、ワレ」

出会ったあの日から変わらない口の悪さに惚れたのは私の方だった。

叶わないと知りながら、それでも思い続けたのも私。

離れたくないのに、離れないといけないとやっと気付いた。

「何が?ラブホ来てヤる事なんてひとつしかないじゃろ。先に気分上げとったんやん」

テレビから視線を逸らさずに乳繰り合う男女を齧り付いて見ていると額の皮に激しい痛みが走る。でも表情は変わらなかった。痛みに顔を歪めることも悲しくて涙が零れることも、驚くことも。

「こっちは電話しとるんじゃ。ふざけんなや」

「ふざけちょらんよ」

私の前髪を引っ張る陸の手を払い除け、そのまま陸の両肩を強く押した。

「私はあの日から今日まで、ずぅっ、と本気じゃて。だって陸が大好きなんじゃもん」

ベッドに押し倒されて、下から私を睨み付ける陸に欲情とは違う、それよりも劣る感情を抱く。

「なぁ。今日は生でええよ。最近生理ダルぅてピル飲みだしたけぇ、大丈夫。安全日じゃし」

悪戯に笑って見せて、口付けをした。
陸がいつも拒む口付けを、無理矢理。

「安全日て、んなもん絶対違うやろうが。いけん、やめろ」

急がなければ風邪を引く。風邪を引いてしまえばもう後戻りが出来なくなる。

前戯などというまどろっこしいお遊びは今は要らない。もうずっと、この先も、そんな物は要らない。

乾いた膣に捩じ込む、芯のない柔さが次第に硬くなる。それに喜びを感じられないのは、もう身体が咳き込み始めたから。

「ねぇ、陸。……ありがとうね、私幸せ」

腰を動かして誘導するのは、お別れ。
私の下で悩ましげな顔を浮かべて悶える姿も見納めだ。優しく頬を撫で、また口付けを落として唇をがり、と噛まれた。

血の味はいつだって生臭い。
最後の精子はきっと甘くて、苦いのだろう。

テレビの中の二人もこれで最後と言わんばかりに盛り上がっている。

「……ほんま、に……あかん」

初めて感じる陸の熱は、私の心とは真反対に熱かった。それが悲しくて、可笑しくて静かに陸の胸板へと涙を落とし続けた。

陸のピアスを撫でて、私のピアスを撫でた。

耳垂れはいつも止まらずに、私を濡らし続けていた。
無いのに今日、かぴかぴに固まって違う痒みが私を蝕む。

「今日はもう帰るわ。また、連絡するね」

シャワーを浴びずに、服を掻き集めていつもの様に笑うと、まるで犯された生娘のように呆然とした表情の陸が小さく頷いた。

帰り道、私の中から逃げ出すように精子がどろりと下着に落ちた。

また、が来ない明日から私はどう生きていこう。この生暖かい不快感を流し切った私は、これからどうすればいいのだろうか。

忘れてしまった私の名前は、取り戻せるのだろうか。取り戻せなくてもいいや、そう開き直って、そんな事じゃいけないと落ち込んだ。無理に止めていたから忙しなく回る思考回路は不規則に乱れて行った。

泣きながら歩く真夜中の道。
空にはひっくり返った三日月だけがぽつんと浮かんでいた。
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