あおいぽりばけつ
「今なんて?」

「だから、赤ちゃんがお腹に居る。これ、エコー」

妊娠が発覚した数日後。父と母の目の前に、エコー写真を差し出した。父は表情がカチコチに固まって、母は突然の私の言葉に今にも泣き出しそうだった。

「相手は……」

「一人で育てる」

母の問いに間髪入れずに答えると、頭を抱えて俯いてしまった。
今、私が言っていることはとても親不孝だと思う。だけど私は決めたのだ。一人でも、この子を大切に育てると。

空白の数秒後。いつもより、数トーン低い声で父が言う。

「……お父さんは反対だよ」

いつも静かで優しい父が言うその言葉はどんな物よりも重たく感じる。

「お前は、大切な娘だからね。そんなお前に、辛い思いはさせれんのよ」

「そうよ、お父さんの言う通りよ」

「そりゃあ、命を無駄にしてしまうのは一番やっちゃいけん事じゃけど、子を産み育てるってのは遊びじゃない。それなりの覚悟を持たにゃいけん」

父の言葉は全てが正論。母も父も、私を必死に育ててきてくれたから、それを私は肌で感じてきたからこそ言葉が辛くのしかかる。

「……ねぇ私が産まれた日の話、して」

突然こんな事を口にしてはぐらかしたと思われただろうか。
だけど、病院へ行き我が子の命の鼓動を感じて二人に聞いてみたいと思ったのだ。

「……伊織がお腹ん中に居るのに気付いたんは冬の寒い日やったねぇ」

私の問いに硬い表情のまま母が語り出して、父がふっと微笑んだ。

「少し遅いけどクリスマスプレゼントだって、喜んだよ」

静かに私の隣に座った母が私の肩に頭を乗せて小さく小さく、話し続ける。肩に伝わる温もりに不安や悲しみが紛れ込んで私の涙腺も緩み出した。

「必死だったわ。あんたがお腹ん中おるって思ったら急に歩くんも怖くて。私が守ったらな誰がこの子守れるんやって、強う思うたよ」

不意に父が立ち上がり部屋を出た。戻ってきた父は手にアルバムを持ち開きながらソファに座った。手に取りアルバムを捲ると、生まれた日から今日までの私がいた。

「十月十日なんて、本当にあっという間で日に日に大きくなる母さんのお腹に向かって毎日、話しかけた」

悲しくもないのにぽろぽろと流れる涙はまるで温泉の様に温かく、胸に染み込む。
エコー写真を持ち上げた母が涙を零しながら噛み締めるように言葉を紡いだ。

「幸せにしちゃらなあかんって、産声聞いた瞬間から今日までずぅっと思ってたんよ。お父さんも、お母さんも」

「伊織、産んで後悔せんか?一人でも、守ってやれるか?」

母と父の言葉に、涙を流しながら私は力強く頷く。

「だって、大切な人との子供やよ。後悔してしまうかもなんて、この子が聞いてるのに、言えない」

ぺったんこのお腹に手を当てて、私は笑ってみせた。
母がそっと手を重ねて、「そうよね、ばぁば、悪いこと言ってしもうたね、ごめんね」と泣き笑い、言う。

「出来ることはなんでもしちゃる。大切な娘と、可愛い孫の為なら、なんでも」

そう言いながら父がエコーを手にとって、私の写真がずらりと並ぶアルバムに静かに挟んで笑った。
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