あおいぽりばけつ
「七月末から八月頭までは会えん。連絡もせんとってくれ」

短い生涯を必死に生き抜く鳴き声が煩くて仕方ない。
茹だるような暑さに、毎日ニュースでは熱中症の患者数を読み上げて夏のイベント情報を垂れ流している。

陸に電話をかけても、殆ど出てはくれない。
着信履歴に陸の名前は疎らなのに、発信履歴には陸の名前がずらりと並んでいる。

久しぶりに陸からかかってきたと思ったのに、開口一番、私の夏休みを真っ黒に染めた。

「なんでなん」

通話口の向こうから聞こえる無愛想な声にほんの少しだけささくれた。
こんな時、どんな風に噛み付けば良いのか分からなくて、膨れっ面になりながら吐き捨てる。

「でけぇ大会があるんじゃ。集中せなあかん」

明日から夏休み。卓上カレンダー片手に私は口をギュッと固くして、緩ませた。
ローカルテレビから流れる地元の祭りの日程を見ながら私は努めて明るく言ってみせる。

「二十九日。花火大会あるじゃろ。行かん?息抜き!!一瞬だけでも」

「行かんって」

私は何を勘違いしたのだろうか。きっと肌を重ねて心まで重なった気になっていたのだ。

たった三回。
口付けすらも交わさぬ行為で、だ。

「勝たにゃならんのじゃ。今年はイケそうなんじゃ」

ぴしゃりと突っぱねられて幼子の様に口がへの字に曲がり、鼻の奥が痛くなって、右側のボタンを親指でそっと撫でる。

「ほんじゃあ違う奴と行く」

そう言い残して、親指に力を込めた。
折り返しの電話なんて期待していない。なのに、泣きながら眠りに着くまで、手から携帯を離せずにいた。
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