社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

 どこから見ても完璧なわが社のトップは実は朝に弱い。ということも、ここ一ヶ月でわかったことだ。

 いつもシュッとしている社長は、朝いちばんだとどことなくぼんやりしていて、たまに寝癖がついていることもある。今日も後頭部の方からぴょこんと小さな角が生えていて、ちょっとかわいい。

「前原ちゃんが通勤で死にそうになってるみたいなんですよ。だから俺ん家住めばって提案してるんすけど、森さんがいい年の男女なんだからダメだろとか言い出して。社長はどう思います?」

 まだ頭が覚醒していないだろう社長に、名取さんは容赦なく言葉を連射した。私たちを見下ろす端正な顔がしばらく動きを止め、やがてぽかんと口を開ける。

「……は? 前原と名取が一緒に住むって?」

「はい」

 笑顔の営業マンが即座に頷いて、一瞬、時が止まった。

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