お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
◇◇◇
いつの間に眠っていたのだろう。
運転手の「お客さん、お客さん」という呼びかけで千花が目を覚ます。
一瞬、自分がどこでなにをしているのかわからなかった。
心が疲れ果て、まるでシートの一部にでもなったかのように身体が重い。
修矢と楽しく笑う夢を見ていた気がする。ここがタクシーの中で、隣に修矢がいないばかりか、その修矢から逃げてきたことを思い出した。
「お客さん、いつまで走り続けますか?」
「あっ、ごめんなさい」
腕時計を慌てて確認してみれば、タクシーに乗ってから、もうすでに二時間も経過していた。
窓の外を流れる景色に千花は見覚えがないが、都内で間違いはなさそうだ。
(どうしよう。……どこに行こう)
午後七時過ぎ。この時間では東子はまだ仕事だろう。
焦って行き先を考えてみるが、千花にはどこにも行くあてがない。
結局、実家の住所をおおまかに告げるしかなかった。