年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「ごめん……だけど、急で本当に悪いんだけど……」


(輝とはずっと一緒に居たかったよ。でも、もう分かったから…)


私達じゃ住む世界が違うんだってこと。

例えば輝が都築社長の嫡子でなくても、後を継ぐ者として、その立場を望まれてるんだってこと。

それに婚約者もいて、きちんとお膳立ても整ってるんだということを__。


(そして、私のように借金のある家庭の女では、やっぱり駄目だってことも勿論……)


目を伏せて次の言葉を言うのを躊躇う。
だけど、自分から手を離さなければ、自分だけでなく家族も苦しい立場になるかもしれない。


(それに、影の存在として輝と付き合っていくなんて、そんなの絶対に嫌だし…)


私は輝のことをずっと側で見ていたい。
疲れて帰ってきても抱き締められる距離にいて、その温もりを身体中で感じられる立場で居たい。


(…でも、それをもう望めないのなら……)


せめて後腐れなく輝と別れて、彼に似合った生活を送れるよう、自分から手を離してあげないと駄目だ。
私みたいな者に未練を残さないで済むように彼をフッて、この三年余りの日々に区切りを付けないといけない__。


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