年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
…だから、今日で全部おしまい。輝のことは好きだけど、これで私達…終わりにしましょう」


ガタンと椅子から立ち上がり輝を見下ろす。
彼は事態が飲み込めてない様子で、目を見開いたまま私のことを見上げていた。


(ごめんね輝。私には、こういう言い方しか出来なくて…)


せめて今だけでいいから年上面させて。
恨んでもいいから、最低だと思われてもいいから、さよならを言わせて。


「バイバイ。…輝」


コートを引っ掴み、慌てて走り出す。


「望美!?」


輝は大きな声で私を呼んだけれど、私は振り返らずに外へ出た。
そして、彼に捕まらないようにタクシーを止め、それに飛び乗って出て貰った。


「行って!早く!」

「えっ!?ちょっと何処へ!?」

「何処でもいいから早く出て!とにかく真っ直ぐでいいから走って!」

「ええっ!?は、はい」


私の剣幕に押されるように走り出すタクシー。その視界に彼の顔が入らないよう、ぎゅっと硬く目を閉じた。


(輝……)


私を追って輝が出てきたかどうかは分からない。…ただ、自分が彼から逃げ出したのは確かだ。


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