年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
私の眼前には、朝日に照らされた街並みが広がっていた。
薄っすらと白く煙る靄の中に浮かぶビル群。
道路には列を成した車のランプが見え、信号が変わる度にその列が動いたり止まってりしている__。
「はぁ…」
大きな溜息を吐き出すと、湯気の様な白い塊はあっという間に薄れ、周りの空気に溶けていってしまう。その呆気なさに気分を沈ませ、ぼうっと霞む街並みを見返した。
私は今朝、家を出た後、真っ直ぐ仕事に行く気にはならずズル休みをした。
インフルエンザに罹ったと電話を入れ、休んでいる間に不動産屋を回ろうと決めたんだ。
それも金曜日に輝に嘘を吐いてしまったから。
地方に引っ越すなんて難しい嘘を言ってしまった所為で、仕事も辞めないといけなくなった。
だけど、仕事はすぐに見つかるものじゃない。
辞めてしまうと部屋も借りれなくなるから、取り敢えずは先に部屋を見つけて押さえておこうかと思った。
なるべくアクセスが良くて、オートロック付きの部屋がいい。
家賃も出来るだけ安い所…と思うけれど、そういう部屋が空いている可能性は極めて低く__。