年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
駅前の不動産屋の前を彷徨いながら見繕ってはみたものの、どう考えても難しいなぁ…としか思えず。


弱ったなぁ…と気弱になったところに見えてきたのが展望タワー。
ふと、輝と行ったことがある場所だと思い出し、フラフラと近付いた。

タワーの営業時間にはまだ早い筈と思っていたんだけれど、意外にも営業時間は早くてエレベーターは動いていた。
地上二百メートルの高さにある展望室までそれに乗って上がり、扉の向こうに霞む街並みに近寄った。


最初は余りの高さに少しだけ背筋がゾッとした。
足先を竦ませながら視線を遠くに向けると棚引く雲の隙間から山が見え、ああ綺麗だなぁ…と感心した。


(そう言えば、初めてきた時は夜だったっけ)


仕事を終えて、輝と食事をした帰りに此処へ寄った。
眺めがいいんだと教えられ、二人で展望室から夜景を臨んだ。

あの日はクリスマスの前で、遠目に見えるイルミネーションやライトが光り輝いていて綺麗だった__。


私は其処で彼に、毎年母が作るクリスマスケーキが美味しくて…と教えた。
手先が器用で明るくて、自慢の母なの…と言ったような気がする。


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