元ストーカーの夫は、
***

暫くして遥が帰って来た……のだけれど。

……どうしたんだろう? なんだか様子がおかしい。


「……遥?どうしたの?何かあった?」


キッチンで鍋に火をつけながら後ろを振り向いた私の問いに、遥は不思議そうにコートを脱ぎながら首を傾げた。


「ううん?何もないよ?どうして?」

「……」


逆に遥にどうして?と返されて、私の方が言葉に詰まって黙り込んでしまった。

……だって。

いつもの遥だったら、コートを脱ぐ前に私にベッタリ後ろから抱きついてきて、「今日のご飯は何〜?」って鍋をのぞいて来るのに……それが、ない。


なんだか変に調子を狂わされた気分になって、「……なんでもない」とまた鍋の方を向くと、遥がこちらに近づいて来た。


「今日のご飯は何〜?」


いつもの彼の口調なのに、何故か抱きついては来なくて。

調子を狂わされたままの私は、遥との近い距離に妙にドキドキと心臓が騒ぐ。

変に緊張してしまい前を向いたまま「酢豚」と答えると、遥が横から顔を覗き込んで来た。


「な、何っ?」

「なっちゃん、何か怒ってる?」

「お、怒ってないよ?なんで?」

「……なんかいつものなっちゃんと違って、声が冷たい」

「え、だってそれは遥が……」


と、言いかけて、この後になんて言葉を続ければいいのか分からなくて、つい口を噤んでしまった。


え、待って。
なんて言えばいいの……?


遥がいつもみたいに抱きついてこないから調子が狂う、なんて、死ぬほど恥ずかしくて絶対に言えない。
< 165 / 173 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop