元ストーカーの夫は、
どう言葉を続ければいいのか分からないまま私が黙り込んでいると、また今朝と同じように遥がジッと私を見つめて来た。

ドキッと鼓動が跳ねて、遥と視線が絡む。

何故か視線を逸らせずにいると、遥の口角が少しだけ上がった気がした。



「───俺が、何?」



遥のその言葉で、一気に顔が上気する。


やられたっ……!


遥の先程の表情と、声に乗せられた楽しげな雰囲気に嫌でも気付かされる。

────遥は、“わざと”私に触れてこないのだ。

“わざと”いつもと違う行動をして、私の反応を見ている。

大方、私がベタベタしたくないのだと言った言葉の訂正でもさせようとしているのだ。

ベタベタしたくないんでしょう?だから触れないんだよ、と。私から求めさせようとしている遥の行動に、まんまと乗せられるところだった。危ない。っていうか悔しい。


……よし。──遥がそのつもりなら、私だって受けて立とう。


そんな手には絶対に、引っ掛かってやるもんか。

変な闘志に火をつけられて、私も遥にニッコリと微笑み返した。



「ううん、なんでもないよ。ご飯の準備するから、お風呂先に入って来たら?」



暗に退け、と言った私の言葉に、一瞬遥が目を丸くする。

だけどそこは察しのいい遥だ。
私の顔をジッと見つめて、少しだけ意地悪く口角を上げて笑うと、「分かった」とすぐに離れて行く。


……こうして、私と遥の『意地の張り合い』という、なんとも間抜けな攻防戦が始まってしまった。
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