元ストーカーの夫は、
その遥の笑い声に、更にムスッとしてしまう。

そのまま前を向いて、食器を少し乱暴にスポンジで洗った。

自分でも、今の自分が相当子供っぽいという事は分かっているのだ。分かっているけれど、今更素直になるきっかけなんか掴めなくて、つい意地を張ってしまう。


「なっちゃん、怒ってる?」


遥が私の顔を横から覗き込むようにして、声を掛けてくる。

その楽しそうな声に、やっぱり素直に寂しいなんて言えなくて、ムスッとしたまま意地でも遥の方を向いてやらない。


「……別に」

「んー、じゃあ質問を変えようかな。意地になってる?」

「……それは遥の方でしょ」

「俺?俺はそんな事ないよ」

「……っ!嘘!だっていつもと明らかに違う!」


つい興奮してしまい声を張り上げ遥を見ると、ニコニコしている彼の表情が目に映り、またしまったと唇を噛んだ。

腹が立つ程、今の遥には余裕がある。

だけどその彼の雰囲気からして、本当に遥は意地になっているわけではないのかもしれないと思うと、急に不安と焦りが押し寄せてきた。

……そうだ。遥はいつも私にベッタリくっついて来てくれてはいるけれど、それは“遥が”やりたくてやっている行動ではないのかもしれない。

“私が”……不安にならないように。

私の為に、“わざと”いつもあんな風にしてくれているのかもしれない。


段々と不安は増していき、意地を張って張り合おうとしていたテンションが一気に下がる。

───やっぱり私は……遥かに対して驕った考えが抜けきらないのだと思い知らされる。

今の遥がそうだとは限らないけれど、彼が私をずっと好きでいてくれるなんて保証はどこにもないのだ。



「……ゴメン、なんでもない。今の忘れて」

「え?」



急に沈んだ声で答えた私の声に、遥が本気で驚いているのが隣から伝わってくる。
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