マリッジリング〜絶対に、渡さない〜
 
『じゃあ、いってきます!』
『気をつけてね』


午前六時半。
あっという間に出て行った大地を玄関まで見送ると、静かになった家の中を振り返り気持ちを切り替えた。


『亜実たち起こさなきゃ…』

独り言をこぼしながら二階へ上がった私は、寝室で眠る二人を起こすとそのまま一階の洗面所へ誘導し、二人が顔を洗ったところでキッチンに向かった。

朝ごはんも食べずにバタバタと行ってしまった大地。
今日はお弁当も間に合わなかったし、晩ごはんは野菜多めで栄養バランスを整えなきゃな…と、ぼんやりと考えながら娘たちの食事の支度を進めていく。


『それにしても…早かったな』

割った卵をボーッとかき混ぜていると、ふとこぼれた声。

『やっぱり、何かトラブル?』

こんな朝早くに大地が仕事に行くなんてこと、今までなかったし。

出張でもない限り、朝はいつも早くて七時半、だいたい四十五分頃に家を出るのが普通だ。

だとしたら、やっぱり何かあったのかな。

大地は家ではあまり仕事の話をしないから、最近の会社での様子もわからない。
一緒に働いていた頃は、聞かなくたって何でも耳に入っていたのにな…。

十数年前の懐かしい頃を思い出しつつ娘たちと朝食をとると、学校へ行く亜矢を玄関まで見送り、亜矢も幼稚園バスの停留所まで送り届けた。
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