時には優しく…微笑みを
「櫻井ー!」

「は、はいっ」

昼休みが終わり業務に戻ろうとした私を、厳しさで有名な菅野課長に呼ばれてしまった。

ドキドキ

何かしたかな…私。

恐る恐る、課長の所に走って行った。

「菅野課長、お呼びでしょうか」

「あぁ、すまん。この資料すぐにまとめられるか?13時30分からの会議で必要なんだ」

必要なんだ、と渡された資料はかなりの枚数があった。
これをまとめろ、と。

鬼ですか。
それも後30分とか…

「分かりました。まとめるのはどれくらいの量ですか?」

「2枚程度になればいいんだ。大丈夫か?」

「とりあえず、やります。貸して下さい」

菅野課長から、資料をもらってすぐにパソコンの前に座って作業を始めた。
ざっと、資料に目を通して、必要な個所、必要と思われる所に印を入れて、文章を作成していった。

カチャカチャ…

作業する事30分…
私ってやる時はやるんだな。
自画自賛…

「出来たー!」

慌てて、菅野課長の所にプリントアウトした作成した紙を持っていった。

「どうですか?」

静かに私が作成した資料に目を通している、菅野課長を黙って見守っていた。
パッと顔を上げた菅野課長は、笑顔を向けてくれた。

「助かったよ。これで十分だ。ちょっと出てくる、サンキュ」

そう言うと、菅野課長は慌ただしく営業部を出て行った。

………
なんなんだったんだ。
今の顔…

課長って、菅野課長ってあんな顔出来るんだ。
いつも難しい顔をして、怒ってる所しか見た事がなかったから、その笑った顔にやられてしまった。

営業部の菅野課長は、黙ってるとイケメンで、他の部署からもファンが多い人だ…
ただ、仕事に厳しく、いつも難しい顔をしてる所しか見た事がなくて…
私が入社した去年、会社の人は何を思ったのか、課長を私の指導係にしてしまい…
もれなく、かなり厳しくしごかれた。
同期からは、指導係が菅野課長だなんて羨ましい!と言われ続け、変わってあげようか?と本気で思ったほど。

そんな、課長から褒められるわ、笑顔見せてもらえるとか、私の不幸がいっぺんに飛んだんじゃないかな、と思った。
ま、不幸には変わりないけど…

菅野課長が出て行ったので、私は残っている通常の業務に戻った。
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