濡れた月の唄う夜
笑い合っていると、ふとクロスが真顔になった。
「クロス…?どうかした?」
「うん…」
 浮かばない顔で、クロスはコーヒーを飲む。
「クロス…?」
「君は僕の本当のことを知ったら、変わってしまうかな、って思って…」
 たまに見るクロスの思い詰めた表情に、どんな不安があるのか、考えつかない。
 それがまさか、私のことだったなんて、思いもよらなかった。
 私はクロスの手を握って、その瞳を見つめた。
 大きな手。長い指先は、ひんやりと冷たい。
「す、好き…だよ。私、どんなクロスでも」
「羽織…」
「どんなクロスでも、いま、私の前にいるのは、たった一人の私の恋人だよ」
「羽織…それは僕が人間じゃなくても?」
「そうだよ!…え?」
 何か、冗談を言われたのか、だがクロスの瞳は真剣にこちらを見ている。
「クロス…?」
「そう、僕は、実は人間じゃないんだ」
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