最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 今回の社長は秘書嫌い、正確に言えば女の秘書が大嫌いというのは、室長から前もって釘を刺されていた。なんでも以前についていた人が二人続けて、玉の輿狙い丸わかりのあからさまなアプローチをしてきたらしい。二人ともすぐクビになったらしいけど。

「承知しております」
「ならいいが。……まあ、これからよろしく頼む。もう下がっていい」

 手を振って私を追いやると、一瞬にして仕事の世界に戻っていく。私は心の中でため息をつきながら、社長室を後にした。

 明日から正式に私のボスになるこの男の名前は、上條東吾(かみじょうとうご)。日本でも有数の企業グループ、上條グループの創業家の次男坊……いわゆる御曹司だ。

 元々上條グループは明治時代に海運業から始まって、重化学工業を軸に不動産から食品、保険などあらゆる分野に発展した。
 今ではそれぞれ独立して、上條家は主要企業である上條ケミカルホールディングスの経営のみに携わっているけれど、グループ内での立ち位置はやはり他とは一線を画すらしい。その上條家の御曹司ということは、つまりはもんのすごいお坊ちゃまだ。

 日本最高学府を卒業した後、上條製薬で営業を経験し、留学してMBAを取得。帰国後は上條ケミカル本社で常務を務めた後、その子会社である我が三星(みつぼし)シンセティックの社長に就任、と、実に華々しい経歴を持っている。
 それに加えてあの整った容姿、御年三十二歳で独身。女性が群がるのも仕方がない。それでも浮いた噂を聞かないのは、ひとえにあの冷たいオーラのせいだろう。
 クールといえば聞こえはいいが、実際に間近で見たら、冷たさで凍えてしまいそうだ。あんな男の恋人とか絶対イヤ。
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