最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 デスクに戻ると、待ってましたとばかりに隣のデスクの茉奈ちゃんが話しかけてきた。

「どうでした? 噂通り?」
「噂そのまま。雪男も真っ青の冷徹ぶり」
「じゃなくてえ。顔ですよ、顔。那田翔平にそっくりでした?」
「まあ似てたは似てたけど」

 茉奈ちゃんが今人気絶好調の俳優の名を口にする。顔の造作とか、クールな感じは似てるけど、那田翔平はもっと穏やかな感じだ。あんなブリザードは発してない。

 上條社長はメディアの類がお好きではないらしく、写真などは一切流通していない。グループにいれば名前や噂は聞くけれど、実際にお目にかかる機会などほとんどないので、みんなその姿を見たくて仕方ないのだ。

 ほんとですかあ、と茉奈ちゃんの黄色い声が飛ぶ。

「いいなあ先輩、そんな人の担当できるなんて」
「じゃあ替わってよ」
「いやいや、私じゃ役不足なので。里香さんは室長直々にご指名ですし」

 社長はルックスがいいだけじゃなく、仕事はできるけど周りの人間にも一切妥協を許さない厳しい人間だ、というのは有名な話だ。しかも、室長から私に言い放たれたあの指名理由は、秘書室の人間みんなが知っている。みんな遠巻きに見ていたいけど、担当になるのは絶対ごめんだ、と思っているに違いない。
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