真実(まこと)の愛
「……お忙しい新進気鋭のグラフィックデザイナーさんをお呼びたてして悪かったわね。今日来てもらったのは……」
麻琴は早速クリムゾンレッドのタブレットを操作して、本題に入ろうとする。
「待てよ、麻琴」
芝田が左手を伸ばして、そんな麻琴を制する。
だが、しかし……その薬指には、ゴールドに輝く指輪があった。
現在の芝田には、五歳下の妻とかわいい二人の子どもがいた。
三十代半ばの、見た目が極上なうえに仕事も絶好調という男に、妻子がいない方が奇跡というものだ。
芝田の妻の父親は、彼が師事するグラフィックデザイナーで、業界内では大御所だ。
そして、美大を卒業してからずっと勤務しているデザイン事務所の社長でもある。よほどのことがない限り、娘を溺愛する師匠は「娘婿」を次期社長にするだろう。
もちろん、芝田の才能を見込んだからこそ、当時女子大を卒業したばかりの愛娘との結婚を許したのだが。
東京に帰ってきた麻琴が芝田と連絡を取らずにいたのは、青山とのことがあった以外に、彼が家庭を持ったことを学生時代の友人によって知らされていたから、というのもある。