真実(まこと)の愛
「でも、恭介はそうじゃなかった。
同じ『きっかけ』にするにも、彼は真反対のベクトルに向いていたの。
『これが潮時だと思うから別れよう』って、きっぱり言われたわ」
礼子は慣れた手つきでスワリングする。
「わたしたちは確かにつき合ってはいたけれど、実はお互い『一筋』ってわけじゃなかったのよ。
二十歳前後からアラサーまでの間なんて、誘惑もあるし好奇心も旺盛だし。
……長い人生の中で『たった一人しか知らない』っていうのは考えられなかったわ。
だったらと、いざ別れるとなれば、今度は急に一人になるのがさみしくなったり、怖くなったりしてね。だから、わたしも恭介も、多少のことには目を瞑ってやり過ごしていたわ」
礼子はワイングラスの中の蜂蜜色を見つめる。
「……別れるまでもなく、とっくに終わっていたのよ、わたしたち」
礼子はワイングラスを店の照明にかざす。
蜂蜜色が黄金色に変わった。
「だから、ヨリを戻すなんて考えられないわ。
……きっと、恭介もそうよ」