真実(まこと)の愛

……あ、そうだわっ。

「きょ、恭介さんっ、わ、わたし……大阪に転勤する話があるのっ!」

麻琴は恭介からぎゅーっと力いっぱい抱きしめられながら、搾り出すように言った。

「……えっ?」

恭介の腕の力が緩んだ。

「そうなんです……実は上司から、製品(プロダクト)デザインよりも人材管理の方が向いてるんじゃないか、って言われて。その上司が半年後に大阪に転勤になるので、一緒に来て管理職としてのスキルを上げてみないか、って打診があったんです。
そのために、しかるべきポストも用意してくれるそうなので、わたしにとってはチャンスなんです」

まだ具体的に大阪へ行くと考えているわけではないが、麻琴は結婚だけが人生だと思っているわけじゃなくて、一応キャリアアップも目指している女なのだ。

激務である医者には、不規則な生活環境を整えてくれる妻が最適であろう。もしくは、同業者の女医や看護師などのように、仕事の実情をしっかり把握している妻とか、と麻琴は思った。

……だから、わたしには、到底無理だわ。
結婚したところで、新婚早々、わたしが大阪へ単身赴任になるじゃない?遠距離になって、夫婦関係が破綻して、離婚するのが目に見えてるわ。
それこそ、守永さんと瑞季の二の舞よ。

守永は元妻と結婚していたとき、単身赴任をしていた。

「ねぇ……それって、まさか『あの上司』じゃないよね?」

いつも人を喰ったみたいに軽やかな恭介の口調が、なぜか突然、地を這うかのごとく低ーい声に豹変した。

もちろん、守永のことを言ってるのだ。
そして、ビンゴだ。


……なんだか、イヤな予感しかしないんだけれども。

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