真実(まこと)の愛
「『御曹司』じゃないですよ。分家なんですから。それに……『出戻り娘の息子』ですよ?」
典士は、その穏やかそうな佇まいからは想像もつかないほど、乾いた笑みを浮かべた。
「君のお母さんは、大橋リゾートの社長じゃないか」
大橋コーポレーションは、大橋建設・大橋不動産・大橋リゾートなどを抱える大手総合建設業である。そして、典士の母親は、大橋コーポレーションの先代社長の娘で、現在の社長の妹だった。
さらに、麻琴が勤務するステーショナリーネットも、傘下ではないが関わりがある。
社長の妻・誓子が「本家の娘」なのだ。典士にとっては従姉にあたる。
「『コーポレーション』の方は、今は『建設』で社長をしている本家の洋一郎さんが継ぐことになってます。僕は一応『不動産』に勤務してますが、先のことはまったくわからないですよ」
典士は肩を竦める。まるで入社したてのように見える風貌だが、三十歳になった。
二十代の頃は、本社勤務と並行してあちこちのマンションでコンシェルジュをすることで「修行」させられた。
現在は本社の経営企画部に所属する傍ら、週に一回だけこのマンションのコンシェルジュに配属されている。「現場の感覚」を忘れたくない典士が、どうしてもと社長に頼み込んだのだ。
「長澤社長は一人娘を嫁に出したし、相手は広告代理店の勤務だっていうからね。だから、君のことを後継者にしたいと思ってるんじゃないかな。もちろん、君のお母さんの世理子社長もね」
大橋不動産の長澤社長は、大橋コーポレーション先代社長の次男で現在の社長の弟ではあるが、跡取りのいなかった母方の姓を引き継いだ。典士にとっては伯父にあたる人だ。