真実(まこと)の愛

「いらっしゃいませ、恭介(きょうすけ)さま」

杉山が彼におしぼりを差し出す。

Cheers,mate.(ありがとう)

彼……松波 恭介が酒を覚えたのが「伝説のバーテンダー」として名を馳せた杉山の祖父のバーだった。

その縁で、杉山のことは彼がまだ酒も飲めない十代の頃から知っている。
祖父の手伝いをして下働きしていたからだ。

「恭介さまはギネスでよろしいですね?」

杉山はすでにジョッキを左手に持ち、右手はサーバーのレバーを握っていた。

「おい、(かける)、『決定事項』かよ?
……ま、いつもそうだけどさ」

松波は口を歪めて苦笑する。

最初の乾杯が、アイルランドを代表する黒ビールになるのが彼の定番だった。

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