真実(まこと)の愛

「ところで……麻琴さんの勤務状況なんだけどね」

麻琴が返したタブレットで、彼女のデータを見ながら松波が言う。

「忙しいのはわかるんだけれども、勤務時間をもう少し短縮しないといけないね」

それは、麻琴も重々わかっていた。

「今回、僕がここの産業医として迎えられたのもね、残業があたりまえっていう『体質』をなんとかしてほしい、っていうことなんだよね。
まぁ、会社にとっては残業手当を圧縮したいっていうのもあるだろうけれど、こんな勤務体制が常習化してちゃ、そのうち潰れる人材が続出しかねないからね」

確かに毎年、やりがいはある仕事なのにどうしても体力がついてゆけない、と辞職していく人たちが少なからずいた。

「まぁ、こういうのは上の役職の人たちから改めてもらわないと始まらないんだけど、社長からはこのことに関する『提言書』も任されているんだ。そのためには、まずこの会社の実状を知らないと作成できないからさ。
……麻琴さん、協力してくれないかな?」

麻琴もこのたび「上の役職」の下っ端になった。
部下になった人たちの勤務環境を整えるのも「上司」としての仕事だ。

「わかりました。わたしでできることであれば、なんでも協力させてもらいます」

麻琴はしっかりと肯いた。

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