ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「お箸で食べるイタリアン、というコンセプトに合わせて、リノベーションではなく、あえて古民家風に設計したんだ」
安藤さんが紹介してくれたお店は、レトロな味わいとモダンな雰囲気を醸し出す、どこか懐かしく、居心地良く感じさせるお店。
「素敵」
「素敵ですね」
実松くんと声が重なった。
ゆったりくつろげるように、椅子は全て肘掛け付き。
杉の一枚板のカウンター席に、琉球畳。
箱庭の見せ方は秀逸で、趣ある癒し空間が演出されていた。
「安藤さんは近未来的な建物が得意なのに、純粋な日本家屋も創り上げてしまうなんてさすがですっ!」
店員さんが持って来てくれたおしぼりで手を拭きながら興奮気味に言うと、安藤さんは店内に目を配りながら答えてくれた。
「奥さんが寺とか温泉旅館とか古風な感じが好きでね。あちこち一緒に回ってたら、知らないうちに勉強してたんだよ」
「そういえば結婚式も神社でしたね」
半年前行われた安藤夫妻の結婚式には私も実松くんも参列させてもらった。
格式の高い神社での花嫁の白無垢姿はそれはそれは綺麗で。
思い出しただけでうっとりしてしまう。
「恭子も古風なのが好きだもんな」
安藤さんが言う通り、私は近未来的な建造物より、瓦屋根や茅葺き屋根といった日本古来から続く、伝統ある建物が好きだ。
趣味は神社巡り。
最近は忙しくて行けてないけど、ご朱印帳はすでに5冊目に突入している。
「恭子もきっと白無垢、似合うと思うぞ。ドレスも捨てがたいが。実松は?どっちが恭子に似合うと思う?」
「なんで俺に話を振るんですか」
実松くんは興味ないと言わんばかりにメニューに目を通している。