ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
実松くんのことが嫌いなわけではない。

間違いは的確に指摘してくれるし、なにより話しやすい。

何十人と会って来た同業者の中で、何年先も、何十年先も関わっていきたいと思ったのは安藤さんと実松くんだけ。

ただし、それは仕事の関係者としてであって、共通の話題は建築関連のみ。

プライベートで出掛けたこともなければ、業務連絡以外に電話やメールのやり取りをしたこともない。

ふたりで食事に行ったことはあっても、片手で数えられるくらいだし、細かい性格の実松くんに、大雑把な私は目障りなだけだろう。

そんな私たちの間に恋愛感情が発生する可能性は皆無なのだ。

それなのに安藤さんは勝手に話を進める。


「仕事にも良い影響が出ると思うんだよな」

「どういう意味ですか?」


『仕事』と聞いたら黙っていられない。

質問を返せば、安藤さんはにやりと微笑んだ。

したり顔の笑顔を見て、安藤さんに上手いこと転がされている気がした。

でも、質問を返してしまった手前、なんでもありませんとは言えず。

話に耳を傾けると、安藤さんは奥様の話を始めた。


「俺と奥さんは性格が真逆なんだ。お前たちみたいに意見が食い違って些細なことで言い合いになる。でも、正反対の性格のカップルって、一見合わないように見えても、お互いが自分にはないものを求めてるから実はすごくいいんだ」


安藤さんの奥様は同業者ではない。

でも、安藤さんは正反対の性格の彼女に出会ったことで、自分にない考え方に触れて、視野を広げることが出来るようになった、と教えてくれた。


「ここのお店がその証明だ」


そう言われると、説得力が増す。

ただそれは安藤さんに限ってのことで、私と実松くんが付き合って、安藤さんのように才能が開花する保証はない。

実松くんは営業マンだし、性格が真逆とも言い切れない。


「何にせよ、私たちにはあり得ない話ですよ。ね、実松くん?」


同意を求めるように隣に目を向ける。

でも実松くんは私に同調せず、安藤さんに軽い口調で返した。


「安藤さんは俺たちがふたりで一人前だとおっしゃりたいんですかー?」

「何言ってんの?」


私と実松くんは一緒に仕事をしているわけではない。

それぞれが別々の畑で働いているのに、ふたりで一人前は変な話だ。
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