ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
ランチから一週間後の金曜日。
「もう帰りか?」
現場から戻り、事務所内での作業を終えて帰ろうとしたところを、安藤さんから頼まれた資料を持って来た実松くんに出くわした。
「安藤さんならもう帰ったよ」
「じゃあ、これ、渡しておいて」
A4サイズの自社名が入った封筒を受け取り、安藤さんの机の上に置き、外へ出る。
「実松くんはこれから戻るの?」
事務所の扉に鍵を掛けながら話しかける。
「いや、もう終わり」
「そう。じゃあ、気を付けて帰ってね」
私のアパートは事務所のすぐ近く。
実松くんは駅に向かうはずだから反対だ。
玄関先で別れを告げる。
でもすぐに引き止められた。
「飯食いに行かないか?」
「え?あー、うん。いいよ。給料前だから高いお店は無理だけど」
と言ったものの、近くに安い店はあっただろうか。
あまり外食しないから分からない。
鞄からスマートフォンを取り出し、お店を検索する。
「俺が出すからそこは気にすんな」
手元のスマートフォンが実松くんに取り上げられてしまった。
「それは悪いよ。すぐ探すから。割り勘にしよう」
実松くんの手からスマートフォンを奪い返し、お店の検索を続ける。
でもまた取り上げられてしまった。