ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
抵抗も虚しく、引っ張られるようにして連れて来られたのは高級焼肉店。
出迎えてくれた女性は着物姿だった。
「いらっしゃいませ。実松さま」
名乗っていないのに顔だけ見て名前を呼んだところをみると、それだけ常連ということ。
「どうぞこちらへ」
案内された店内は綺麗でおしゃれで、焼肉屋特有の煙たさが一切ない。
椅子に置いたカバンにはご丁寧にも油はね防止の布を掛けられた。
あまりに丁寧な対応に圧倒される。
「とりあえずビールで。いいよな?」
実松くんに言われて、ただただ頷き、実松くんが手に取ったのと同じようにメニューを開く。
「え?!カルビ一人前が1800円?!」
特選ともなると4000円超えだ。
飲み物もあり得ないほど高い。
「だ、大丈夫なの?」
「金なら気にするなって言っただろ。好きなもの選べば…って、その様子じゃ選びそうにないな」
メニュー表の値段を凝視している私を見て、小さく笑った実松くんは店員さんを呼び、特選カルビ、特選タン塩焼き、特選ロース焼き、牛カットステーキ、海鮮焼き盛り、サラダ、サンチュ、海鮮チヂミ、卵スープ、石焼ビビンバ、冷麺を頼んだ。
「そんなに頼んで、食べられるの?」
小声で聞くも、実松くんは私の言葉は無視してメニュー表を閉じた。
「あとデザートに杏仁豆腐二個で。お願いします」
「かしこまりました」
実松くんの笑顔に触れた店員さんは、同じような柔らかな笑顔で会釈すると、厨房へと戻っていった。