俺様外科医と偽装結婚いたします

身体が熱くなる。鼓動の力強さが思考を麻痺させ、気持ちを舞い上がらせていく。


「友人として誘ってくれるなら……べ、別に行っても構わないけど」


わずかに上ずった声で返事をした。

嬉しさでいっぱいになればなるほど、怖さがちらりと顔をのぞかせる。

彼が、私の心に触れた。

銀之助さんのように……もしかしたら、銀之助さんよりも柔らかで温かな微笑みで、私の心を優しく掴んだ。

信号が青に変わると同時に、環さんがアクセルを踏み、右折するべき場所を軽快な速度で直進する。

もう戻れない。

湧き上がってきた甘やかで苦い予感に唇を引き結び、真っ直ぐ前を見つめている環さんの横顔だけを視界に宿した。


< 111 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop