俺様外科医と偽装結婚いたします
「……あの……」
か細く環さんに声をかけられ視線を戻すと、すぐに互いの視線が絡み合った。
「どうしたの?」
「……あー……いや。なんでもない」
五秒ほど見つめ合ってから、彼は瞳を揺らして切り捨てるように呟く。
何を言いかけたのか気になり、私だけが彼を見つめ続けていると、静かな車内に私のお腹の音が響いた。
彼に少しばかり驚いた顔をされ、恥ずかしさで一気に頬が熱くなる。
「しっ、仕方ないでしょ。ギリギリまで働いてたから、夕ご飯食べてないし」
罰の悪さを誤魔化すように、わずかに語気を荒げて言い訳すると、ふっと、環さんが小さく笑った。
その横顔にとくりと胸が高鳴り、思わず目を見張る。
「このままなにか食べに行くか?」
先の買い物はこれから婚約者を演じるために仕方ないことだったかもしれないけれど、今からの食事となると話は別。
これから先は一緒にいる必要のない時間。きっと彼ならすぐにでも私と別れたいと思う……はずなのに。
「私と?」
たまらず確認すると、彼が私に微笑みかけてきた。
「ちょうど俺も友人として咲良を誘うおうかと思ってたから、ちょうどいい」