俺様外科医と偽装結婚いたします
「ありがとうございます」と答えて私の肩にさりげなく手を回してきた環さんの表情はいつも通り涼しげで、まるで本物の恋人同士のように全てがごく自然に感じられた。
一方、私は戸惑いを隠しきれず、夫婦だろうふたりへとぎこちない笑みを浮かべるばかりだ。
銀之助さんが私を呼んだのは環さんの婚約者だからで、彼らだけでなくこの場にいる皆も彼と私をそう見ている。
役目をまっとうするには、他人行儀になりすぎてはいけないとちゃんとわかっているけれど、環さんの恋人役になりきれない自分がいた。
環さんに触れられている箇所が熱い。大きな手を意識せずにはいられなくて、寄り添いあい立っていることが気恥ずかしくてたまらない。
「咲良さんに最初に恋に落ちたのは、実は私なんですよ」
茶目っ気たっぷりに銀之助さんが打ち明けると、男性が「それはそれは」とおどけてみせた。
「環くん、すぐそばに手強いライバルがいて大変ね」
続いた女性の楽しげな言葉に、肩に乗っていた環さんの手にわずかに力が込められた。
「奪われないように頑張ります」
軽く引き寄せられたことで彼との距離がさらに近づく。至近距離にある形の良い唇が柔らかな弧を描き、私はそこから視線を反らせなくなる。