俺様外科医と偽装結婚いたします
「咲良」
環さんから不意に名を呼ばれ、どきりと鼓動が跳ね上がる。慌てて視線を動かすと、すぐに自分を見つめる眼差しにぶつかる。
「そんなに照れるなよ。顔がひどく赤くなってるぞ」
知らしめるように、彼が冷たい指先で私の頬を撫でた。
囁きかけてきた声も多分な甘さを含んでいて、余計に頬が熱くなったような気がした。
「……や、やだ。環さんったら。からかわないでください」
気恥ずかしさから環さんを力いっぱい突き飛ばしたくなる衝動をぐっと堪えつつ、私は頬に触れている彼の手をぎこちない言い回しと共にやんわり押し返す。
「なにか飲み物でもいただこうか」
「そっ、そうですね。そうしましょう」
環さんからの提案に私はすぐさま飛びつく。銀之助さんたちにお辞儀をしたあと、環さんに続いてこの場を離脱した。
前に進みながらもちらりと振り返り見て、愛想笑いを浮かべてこっそり息をつく。
三人は周囲の人々を巻き込みつつ、にこやかな表情でこちらを見ている。その様子は、私たちの話題で盛り上がっていることを物語っていた。
賑わう人々の間を縫うようにしてやってきたテーブルには、綺麗な色のお酒が注がれたシャンパングラスがずらりと並んでいる。