俺様外科医と偽装結婚いたします

彼と肩を並べてのんびり歩を進めつつ、私はどこから話すべきかなと首を傾げた。


「私ね、以前勤めていたのが成木建設だったの。社長の息子で、後継者として名が上がっていた成木さんはみんなの憧れの的で……口には出さなかったけど、彼は私にとっても眩しい存在だった」


「今となっては笑い話だけどね」と付け加えると、「だろうな」と環さんが囁く。彼と目を合わせて笑みを浮かべた後、私は話を続ける。


「仲の良い同期と会社の外でお昼ご飯を食べてた時、その店に成木さんが現れて同じテーブルにつくことになったの。緊張を隠せずにいる私に成木さんがたくさん喋りかけてくれて、すごく気遣ってもくれて、それがきっかけで彼と徐々に親しくなった」


小さくため息をつく。きっとあの頃だって成木さんの傲慢さは隠しきれていなかったと思うのに、視界が曇ってしまっていた私は成木さんのことを素晴らしい人だと信じて疑いもしなかった。


「そのうちデートもするようになった。一回目のデートで高級ブランドの服やバッグをいくつもプレゼントされて、二回目のデートで付き合おうって言われた。三回目でホテルのレストランで食事をして……このまま泊まっていかないかって」


< 137 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop