俺様外科医と偽装結婚いたします

「咲良!」とお祖母ちゃんが急かすように私を呼んだ。

見ると、軽トラの運転手の男性が積んできた食材を店の中へと運びこもうとしていて、トランクにはダンボールがまだ少し並べ置かれている。

ぼんやりしている暇があるならそれを店の中に運び込むのを手伝えとお祖母ちゃんは言いたいのだろう。

私は「今行く!」と返事をして、菫さんを振り返り見た。電話中の彼女もちょうど私へと顔を向けて「行って」というように手を払う仕草をする。

私はそれに微笑んで応えてから菫さんに背を向けて、軽トラックへと走り出した。



両手で抱え持っていたダンボールをキッチン内にあるテーブルの上に置いて、大きく息を吐き出した。

胸元に手を当てる。鼓動はまだひどく乱れたままで、胸に突き刺さった言葉たちが菫さんの疑うような眼差しと共に心を威圧する。

カランと音を立てて配達員が店から出て行った。

レジ近くの棚にある伝票のファイルへと手を伸ばすお祖母ちゃんをぼんやり見つめていると、前触れもなく目が合ってしまい思わず息を飲む。

しかし無表情のまま顔をそらさた。もくもくと伝票をファイルにしまう音だけが響く中、私は居心地の悪さを感じて自室へと戻るべく歩き出した。

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