俺様外科医と偽装結婚いたします

心臓をばくばくと響かせながら、それらしく聞こえるようにと必死に言葉をつないだ。

しかし、菫さんの怪訝な表情を崩すことはできなかった。どうかしらとでも言いたげな顔でわずかに首を傾いでくる。


「もともとは院長の紹介だっけ? 普段の久郷先生は人の意見に左右されないのに、院長相手の時だけは違うんだよね。言いなりって感じ」


言い終えると菫さんはポケットから慌ててスマホを出して、「ごめん」と私にひと言断ってから耳に押し当てた。

喋り出した口調から仕事の電話だろうと判断しつつ、私から離れて行く菫さんの姿を緊張感を持ったまま見つめ続けた。

痛いところを突かれてしまった。

好きなのは私だけで環さんは違うということが、彼女にはバレているのじゃないかとどんどん不安になっていく。

それに菫さんは環さんのことをよく知っている。同じ病院で長く一緒に働いてきた仲間という時点で既に私よりも彼のことに詳しいのは当然だというのに、気落ちしてしまう。

“言いなり”という言葉も、環さんのそばで彼をよく見ているからこそ出たというのが伝わってきて余計に気持ちがくじけた。

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