俺様外科医と偽装結婚いたします
「喧嘩なんてしてないので、どうぞお構いなく」
大真面目にそんなことを言ってきた陸翔を押しやって、私は布巾をぎゅっと握りしめながら大股でキッチンへ進んでいく。
「環くん、今度はいつお店にくるの? 母さんもものすごく会いたいわぁ。たくさんお喋りもしたいし心待ちにしてるからって伝えてくれる?」
気乗りしない顔を向けると母が納得いかないとばかりに目を大きくさせた。
「伝えてくれるくらいいいじゃないの! 最近何度も夜中に電話してるでしょ? 母さん分かってるんだから! 嬉しそうにデートの約束をしてたことも」
「聞いてたの!?」
確かに環さんとの電話は午前零時あたりにすることが多い。自分の話し声を部屋の外から聞かれていたのかと思うと、一瞬で頬が熱くなる。
恥ずかしくて何も言い返せないでいると、母のとなりにいるお祖母ちゃんと目があった。
楽しそうに表情を輝かせている母とは対称的に何を考えているのか全く読み取れないほど真顔だったため、目を合わせていられなくなり私はぎこちなく視線をそらした。
環さんを話のネタに母と陸翔の会話が弾み始めた時、店の電話が鳴った。それに素早く反応したのはお祖母ちゃんだった。