俺様外科医と偽装結婚いたします
「そうか良かった祖父さんか……は? 祖父さん? いったい何の用だよ。俺は聞いてないけど」
再び顔を覗き込まれたため、慌てて笑みを引っ込めて首を傾げた。
「電話で話があるから来て欲しいって言われて……私も何で呼ばれたのかまではわからない」
環さんは「そうか」と呟き、今度は菫さんへと疑問を眼差しでぶつける。
しかし菫さんはその視線をさらりと受け流して、腕時計で時間を確認する。そして私と目を合わせてからエスカレーターを指差した。
「悪いんだけど私もまだ仕事が残ってるから、行きましょ」
私は「うん」と返事をして、さきほどよりもスムーズに環さんへ頭を下げる。
「……待って」
そのまま菫さんの後に着いて行こうとしたけれど、腕を掴まれ強い力で引き止められてしまった。
驚き振り返って戸惑いが膨らむ。環さんは私ではなく、鋭い眼差しで菫さんを見ていた。
「咲良は俺が連れて行く」
厳しく響いた環さんの宣言に菫さんは表情を強張らせた。そして、私のもう片方の腕を素早く掴んでくる。
「頼まれたのは私ですから」
「いや。仕事が残ってるんだろ? あとは俺に任せて戻ってくれ」
「久郷先生こそお忙しいのでは? 私たちに構わないで行ってください」
「祖父さんが呼んだなら、俺にも関係のある話に決まっている。だから俺が連れて行く」