俺様外科医と偽装結婚いたします
頭の中が真っ白になり「こんばんは」とたどたどしくお辞儀をした私に、環さんがふっと笑みを浮かべた。
「どうした?」
小首を傾げて見つめてきた環さんに対して、今度はうろたえてしまう。自分に用事があって訪ねてきたのだと思い違いをしているように見えたからだ。
数秒迷ったあと、正直に銀之助さんに呼ばれてきたことを言おうとした瞬間、私より先に菫さんが口を開いた。
「咲良は久郷先生に用事があってきたわけじゃないですよ」
「えっ? ……それじゃあもしかして、どこか具合でも悪いのか?」
菫さんのひと言で環さんが一気に私の前へと進んできた。私の肩に手を乗せて、真剣な面持ちで問いかけてくる。
私はわずかに身を仰け反らせながら小刻みに首を横に振った。
「ううん、違うの。銀之助さんに呼ばれて、今案内してもらっているところ」
心配する必要が全くないと少し大げさな笑顔を交えてアピールすると、環さんが私の肩から手を引いて弱々しく息をつく。
その仕草から彼が安堵したのが伝わってきて頬が熱くなる。たまらなく嬉しなってしまい、私は顔をうつむかせてこっそり笑みを浮かべる。